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名古屋地方裁判所 昭和62年(ワ)2207号 判決

原告(反訴被告)

中部交通共済協同組合

ほか一名

原告

朝倉健二

ほか一名

被告(反訴原告)

峰徳運輸株式会社

ほか一名

主文

一  原告(反訴被告)日急株式会社は、被告(反訴原告)峰徳運輸株式会社に対し、金二一七万九九七八円及びこれに対する昭和六二年四月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告(反訴被告)日急株式会社は、被告(反訴原告)生川良巳に対し、金九九万円及びこれに対する昭和六二年四月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告(反訴被告)らの被告(反訴原告)らに対する各請求、被告(反訴原告)らの原告(反訴被告)中部交通共済協同組合に対する各請求、被告(反訴原告)峰徳運輸株式会社の原告(反訴被告)日急株式会社に対するその余の請求及び被告(反訴原告)生川良巳の原告(反訴被告)日急株式会社に対するその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、本訴反訴ともに、これを一〇分し、その九を原告(反訴被告)らの負担とし、その余を被告(反訴原告)らの負担とする。

五  この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  本訴請求の趣旨

1  被告(反訴原告)らは、原告(反訴被告)中部交通共済協同組合に対し、連帯して、金六三五九万三一二八円及び内金五四五〇万円に対しては昭和六二年五月一日から、内金六〇万七七九三円に対しては昭和六二年五月一五日から、内金二七八万五三三五円に対しては昭和六二年五月三一日から、内金五七〇万円に対しては被告(反訴原告)峰徳運輸株式会社については昭和六二年七月一八日から、被告(反訴原告)生川良巳については昭和六二年七月二四日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告(反訴原告)らは、原告(反訴被告)日急株式会社に対し、連帯して、金二九八万九七四〇円及び内金二七一万九七四〇円に対しては昭和六二年四月四日から、内金二七万円に対しては被告(反訴原告)峰徳運輸株式会社については昭和六二年七月一八日から、被告(反訴原告)生川良巳については昭和六二年七月二四日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  被告(反訴原告)らは、原告朝倉健二及び原告朝倉はまに対し、連帯して、それぞれ金二七五万円及び内金二五〇万円に対しては昭和六二年四月四日から、内金二五万円に対しては被告(反訴原告)峰徳運輸株式会社については昭和六二年七月一七日から、被告(反訴原告)生川良巳については昭和六二年七月二三日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は被告(反訴原告)らの負担とする。

5  仮執行宣言

二  本訴請求の趣旨に対する答弁

1  原告(反訴被告)らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告(反訴被告)らの負担とする。

三  反訴請求の趣旨

1  原告(反訴被告)らは、被告(反訴原告)峰徳運輸株式会社に対し、連帯して、金五九六万七七〇八円及びこれに対する昭和六二年四月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告(反訴被告)らは、被告(反訴原告)生川良巳に対し、連帯して、金一一〇万円及びこれに対する昭和六二年四月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は原告(反訴被告)らの負担とする。

4  仮執行宣言

四  反訴請求の趣旨に対する答弁

1  被告(反訴原告)らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は被告(反訴原告)らの負担とする。

第二当事者の主張(なお、以下においては、原告(反訴被告)を原告と、被告(反訴原告)を被告という。)

一  本訴請求原因

1  交通事故の発生(以下においては、昭和六二年四月三日午前六時ころ、愛知県豊橋市二川町字西向山七〇番地先道路において発生した及川車と生川車の衝突に端を発する交通事故を「本件事故」という。)

(一) 日時 昭和六二年四月三日午前六時ころ

(二) 場所 愛知県豊橋市二川町字西向山七〇番地先道路

(三) 第一車両 訴外及川文雄(以下「及川」という。)運転の大型貨物自動車(名古屋一一く一三八二、以下「及川車」という。)

(四) 第二車両 被告生川良巳(以下「被告生川」という。)運転の普通貨物自動車(三一一あ五二五、以下「生川車」という。)

(五) 態様 生川車が及川車の前に強引に割り込みをし、その結果、及川は衝突を回避すべく右にハンドルを切り急制動もしたが、中央分離帯に乗り上げそうになり、反射的に左にハンドルを切り直し、生川車の後部に衝突し、そのため、生川車が訴外亡朝倉隆之運転車両に追突し、順次訴外菱木豊運転車両、訴外川合寛司運転車両、訴外川口泰運転車両、訴外竹腰浩顕運転車両と玉突き衝突したものである。

1  責任原因

本件事故当時、被告生川は被告峰徳運輸株式会社(以下「被告会社」という。)所有の車両を運転して、その業務に就いていたところ、本件事故は、被告生川の無理な割り込み運転によつて発生したものであるから、被告生川は民法七〇九条により、被告会社は民法七一五条、自動車損害賠償保償法(以下「自賠法」という。)三条により原告らに対して損害賠償義務がある。

3  損害

(一) 訴外亡朝倉隆之

訴外朝倉隆之は本件事故により死亡し、慰謝料、逸失利益、葬儀費、車両修理費等合計五四五〇万円の損害を受けた。

(二) 原告日急株式会社(以下「原告会社」という。)は、次の損害を受けた。

(1) レツカー車代 一二万一七五〇円

(2) 休車代 一一二万五三〇〇円

(3) 車両修理代 一四七万二六九〇円

(三) 訴外川合寛司は二三〇万円の車両損害を受けた。

(四) 訴外有限会社川口運輸(運転手川口泰)は二万二四〇〇円の車両損害を受けた。

(五) 訴外大新運輸有限会社(運転手菱木豊)は四六万二九三五円の車両損害を受けた。

(六) 訴外津具陸運有限会社(運転手竹腰浩顕)は次のとおり、六〇万七七九三円の損害を受けた。

(1) 車両修理代 一二万五八〇〇円

(2) 積荷代 四八万一九三九円

(七) 原告朝倉健二及び原告朝倉はまは、訴外亡朝倉隆之の父母であり、既に原告中部交通共済協同組合(以下「原告組合」という。)より五四五〇万円の損害の填補をうけているが、このほかに固有の精神的損害に基づく慰謝料各二五〇万円の損害を被つた。

(八) 弁護士費用 六四七万円

内訳 原告組合 五七〇万円

原告会社 二七万円

原告朝倉健二及び原告朝倉はま 各二五万円

4  代位権の取得

原告組合と原告会社は昭和六一年五月一日付けで交通共済契約を締結していたところ、原告組合は、本件事故が原告会社の運転手及川の追突により発生したものと考えていたため、損害を受けた各当事者と示談交渉をし、

(一) 訴外亡朝倉隆之の相続人である原告朝倉健二及び原告朝倉はまに対し、昭和六二年四月三〇日、車両損害、死亡に基づく慰謝料等として合計五四五〇万円を支払い、

(二) 訴外川合寛司に対し、昭和六二年五月三〇日、車両損害金として二三〇万円を支払い、

(三) 訴外有限会社川口運輸に対し、昭和六二年五月三〇日、車両損害金として二万二四〇〇円の車両損害を支払い、

(四) 訴外大新運輸有限会社に対し、昭和六二年五月三〇日、車両損害金として四六万二九三五円を支払い、

(五) 訴外津具陸運有限会社に対し、昭和六二年五月一四日、車両損害金等として六〇万七七九三円を支払つた。

よつて、原告組合は、被告らに対し、損害賠償の代位権に基づき、連帯して、六三五九万三一二八円及び内金五四五〇万円に対しては昭和六二年五月一日から、内金六〇万七七九三円に対しては昭和六二年五月一五日から、内金二七八万五三三五円に対しては昭和六二年五月三一日から、内金五七〇万円に対しては被告会社については訴状送達の翌日である昭和六二年七月一八日から、被告生川については訴状送達の翌日である昭和六二年七月二四日から、それぞれ支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、原告会社は、被告らに対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、連帯して、二九八万九七四〇円及び内金二七一万九七四〇円に対しては昭和六二年四月四日から、内金二七万円に対しては被告会社については訴状送達の翌日である昭和六二年七月一八日から、被告生川については訴状送達の翌日である昭和六二年七月二四日から、それぞれ支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、原告朝倉健二及び原告朝倉はまは、被告らに対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、連帯して、それぞれ二七五万円及び内金二五〇万円に対しては昭和六二年四月四日から、内金二五万円に対しては被告会社については訴状送達の翌日である昭和六二年七月一七日から、被告生川については訴状送達の翌日である昭和六二年七月二三日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を、それぞれ求める。

二  本訴請求原因に対する認否

1  請求原因1のうち、(一)ないし(四)の事実及び(五)の事実のうち、及川車が生川車に追突し、その後次々と玉突き衝突したことは認め、その余は否認する。

なお、本件事故は、及川車が生川車に追突したことに端を発する事故であり、その原因は専ら及川の過失に基づくものである。

2  同2のうち、本件事故当時、被告生川が被告会社所有の車両を運転して、その業務に就いていたことは認め、その余は争う。

3  同3は不知ないし争う。

4  同4のうち、原告組合と原告会社は昭和六一年五月一日付けで交通共済契約を締結していたことは認め、その余は知らない。

三  反訴請求原因

1  交通事故の発生

(一) 本訴請求原因1(一)ないし(四)同旨

(二) 及川車が生川車に追突した。

2  責任原因

本件事故当時、及川は原告会社所有の車両を運転して、その業務に就いていたところ、本件事故は及川の追突により発生したものであるから、原告会社は、民法七一五条、自賠法三条により原告らに対して損害賠償義務がある。

原告組合と原告会社は昭和六一年五月一日付けで交通共済契約を締結していたから、被告らは、原告会社に対する損害賠償請求権に基づき、交通共済契約上の権利を代位行使する。

3  損害

(一) 被告会社

(1) 車両修理代 四二九万七七三〇円

(2) 車両移動代 六万四七五〇円

(3) 積載貨物破損代 三七万二〇〇〇円

(4) 休車補償(二ケ月分) 六九万三二二八円

(5) 弁護士費用 五四万円

(二) 被告生川

(1) 被告生川は、本件事故により頸椎捻挫の傷害を受け、昭和六二年四月四日から同年六月二四日までイタニ外科に入院し、その後、同年七月一〇日まで同病院に通院加療した(実通院日数四日)。

右負傷による精神的損害を慰謝するための慰謝料としては一〇〇万円が相当である。

(2) 弁護士費用 一〇万円

よつて、被告らは、原告組合に対しては原告組合と原告会社が昭和六一年五月一日付けで締結した交通共済契約に基づく交通共済契約上の権利を被告らが原告会社に対する損害賠償請求権に基づき代位行使することにより、原告会社に対しては民法七一五条、自賠法三条により、連帯して、五九六万七七〇八円及びこれに対する昭和六二年四月三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の、被告生川に対しては一一〇万円及びこれに対する昭和六二年四月三日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

四  反訴請求原因に対する認否

1  反訴請求原因1は認める。

但し、及川車が生川車に追突した経緯は本訴請求原因1(五)のとおりである。

2  同2のうち、本件事故当時、及川が原告会社所有の車両を運転して、その業務に就いていたこと及び原告組合と原告会社が昭和六一年五月一日付けで交通共済契約を締結していたことは認め、その余は争う。

3  同3は知らない。

なお、被告会社は車両損害として、車両修理代四二九万七七三〇円を請求しているが、右車両は初年度登録が昭和五六年一月であり、本件事故当時までには六年以上経過しているうえ、中古車価格を表示するレツドブツクにも同型車両の記載はなく、同型車両の記載があつたレツドブツク昭和六一年一一月一日ないし一二月三一日版では一〇〇万円という価格の表示があつたにすぎないことからして、本件事故当時の右車両の価格はせいぜい九〇万円程度であり、このことからすると、右車両の損害は全損として九〇万円とするのが相当である。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるので、これらを引用する。

理由

一  まず本件事故の原因について判断する。

1  本件事故が昭和六二年四月三日午前六時ころ、愛知県豊橋市二川町字西向山七〇番地先道路において発生したこと、その際、及川が大型貨物自動車(名古屋一一く一三八二)を運転し、被告生川が普通貨物自動車(三一一あ五二五)を運転していたこと、及川車が生川車の後部に衝突し、そのため、生川車が訴外亡朝倉隆之運転車両に追突し、順次訴外菱木豊運転車両、訴外川合寛司運転車両、訴外川口泰運転車両、訴外竹腰浩顕運転車両と玉突き衝突したことは、いずれも当時者間に争いがない。

2  右当事者間に争いのない事実に、原本の存在、成立ともに争いのない甲第一〇号証、成立に争いのない乙第一四号証、第一九ないし第二六号証、第二八号証、第二九号証、第三四号証及び第三五号証、証人及川文雄の証言並びに被告生川本人尋問の結果を総合すると(但し、乙第二五号証、第二六号証及び第二九号証並びに証人及川文雄の証言中、後記認定に反する部分は、その余の書証等に照らし措信しがたい。)、次の事実を認定することができ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

(一)  昭和六二年四月三日午前六時前ころ、及川は大型貨物自動車を運転し、被告生川は普通貨物自動車を運転し、いずれも本件事故現場である愛知県豊橋市二川町字西向山七〇番地先に通じる国道一号線岡崎方面から浜松方面に向けて進行していた。

及川は、第二車線を走行していたところ、本件事故現場手前約三キロメートルのところで、生川車が第一車線から及川車の前方に割り込んできたので立腹し、運転手に文句をいつてやろうと考え、生川車を追い掛けたものの、生川車の方が速度が速かつたため、これが果たせなかつた。その後、生川車は、一旦一車線に戻つて走行していたが、本件事故現場の手前約二〇〇ないし二五〇メートルのところで再び第二車線に進路変更したため、及川は一層立腹し、同車に追いついて、その運転手を怒鳴りつけてやろうと考えた。そこで、及川は、時速約八〇ないし九〇キロメートルの速度で一〇〇メートル位の間、車間距離を僅か二八・二メートルしかとらない状態で生川車を追走した。

(二)  昭和六二年四月三日午前六時ころ、本件事故現場手前において、被告生川は、前方の信号が赤色灯火信号を表示していたため、訴外亡朝倉隆之運転の普通乗用自動車の後方で一時停止しようと減速した。及川は、生川車の動静を、同車の後方約一七・五メートルに至つてようやく認め、同車との衝突を避けようと急制動するとともに、ハンドルを右に切つて第二車線の右側の右折車線に進路変更しようとしたが、自車の右側前輪が中央分離帯の縁石に接触したため、その衝撃により自車を左斜め前方に逸走せしめ、自車の右前部を生川車の左後部に追突させた。その衝撃のため、生川車は右斜め前方に暴走し、その前部が中央分離帯にのりあがつたため、半横転状態になり、左側面後部で朝倉隆之運転の普通乗用自動車を押し潰しながら、その前に停止していた川合寛司運転の車両にも追突した。さらに生川車は、左後端部で第一車線に停止中の菱木豊運転の車両にも追突し、生川車等の追突を受けた川合寛司運転の車両はその前方に停止していた竹腰浩顕運転の車両と第一車線に停止していた川口泰運転の車両に追突した。

3  以上の事実によれば、本件の事故原因は、及川の前方注視義務違反及び生川車との間に適切な車間距離を保持しなかつたことにあることは明らかである。

なお、原告らは、本件事故の原因は、被告生川の無理な割り込みにあると主張し、証人及川文雄の証言及び同人の供述を録取した乙第二五号証、第二六号証及び第二九号証には、原告らの主張に沿う供述があるほか、原告組合の依頼で林洋が作成した鑑定書(甲第一号証)も原告らの主張に沿う内容となつている。

しかしながら、乙第二五号証、第二六号証及び第二九号証並びに証人及川文雄の証言中、原告らの主張に沿う部分が、前掲のその余の書証等に照らし措信しがたいことは前述のとおりであり、また、林洋が作成した鑑定書である甲第一号証については、その判断の前提となつた資料が、事故車の写真、登録事項等証明書、事故現場の写真、自動車車両損害調査報告書、竹腰車の修理見積書、交通事故証明書、事故原因調査報告書に限定されており、前記認定のために重要な意味を有する及川自身や菱木豊の捜査段階における供述調書、捜査段階における実況見分調書、被告生川の供述等が斟酌されていないことから、その証拠価値は低いといわざるを得ず、これをもつて前記認定を左右することは到底できないというほかない。

4  したがつて、その余の点について判断するまでもなく、原告らの請求は失当であるというべきである。

そして、本件事故当時、及川が原告会社所有の車両を運転して、その業務に就いていたことは当事者間に争いがないから、原告会社は被告らに対し、被告らが本件事故により被つた損害を賠償する義務があるというべきである。

二  被告らの原告組合に対する請求について

原告組合と原告会社が昭和六一年五月一日付けで交通共済契約を締結していたことは当事者間に争いがない。

右事実によれば、原告会社は原告組合に対して右交通共済契約に基づき、交通共済契約上の権利を有するものと認められる。

被告らは、原告組合に対して、被告らが原告会社に対する損害賠償請求権に基づき、交通共済契約に基づく交通共済契約上の権利を代位行使する旨主張するが、民法四二三条の規定する債権者代位権を行使するためには、特段の事情がない限り、債務者の無資力を要件とすると解されるところ、被告らは債務者の無資力について、何ら主張立証していないから、原告組合に対して、被告らが原告会社に対する損害賠償請求権に基づき、交通共済契約に基づく交通共済契約上の権利を代位行使することは許されないと解される。

もつとも、被告らの主張の真意は、原告会社が原告組合に対して右交通共済契約に基づき有する交通共済契約上の権利を直接行使するという趣旨であるのかもしれないが、右が許容されるには、原告会社と原告組合が締結した右交通共済契約に被害者に交通共済契約上の権利を直接行使することを認める規定が存するかどうかにかかるところ、原告会社と原告組合が締結した右交通共済契約の約款が本訴に提出されていないため、判然とせず、結局、被告らの原告組合に対する請求は認められないというべきである。

三  被告らの損害について

1  被告会社の損害について

被告会社は、本件事故による損害として、(1)車両修理代四二九万七七三〇円、(2)車両移動代六万四七五〇円、(3)積載貨物破損代三七万二〇〇〇円、(4)休車補償(二ケ月分)六九万三二二八円、(5)弁護士費用五万円を請求しているところ、このうち、(2)車両移動代六万四七五〇円については、証人井上準二の証言及びこれにより真正に成立したと認められる乙第四号証により、これを認めることができ、(3)積載貨物破損代三七万二〇〇〇円については、証人井上準二の証言及びこれにより真正に成立したと認められる乙第五号証により、これを認めることができ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

次に(1)車両修理代四二九万七七三〇円であるが、成立に争いのない乙第一号証によれば、生川車は普通貨物自動車で日野K―FD一七六AAであるところ、証人井上準二の証言及びこれにより真正に成立したと認められる乙第二号及び第三号証によれば、生川車の修理見積額として被告会社の主張に沿う記載があるものの、証人井上準二の証言によれば、被告会社においても、修理見積額が高額であつたことから、現実に本件事故にあつた生川車を修理せず、廃車にしていることが認められ、中古車価格を表示する同型車両の記載があつたレツドブツク昭和六一年一一月一日ないし一二月三一日版(成立に争いのない甲第一二号証の一、二)では一〇〇万円という価格の表示があつたにすぎないことからして、車両が全部損傷したものとして損害額を算定するのが相当である(なお、被告会社は車両修理代四二九万七七三〇円として損害を計上しているが、その請求の趣旨は、修理代金が損害として認められない以上は、車両が全部損傷したものとして損害額を請求するものと解するのが相当と認められる。)。本件事故は先に認定したとおり、昭和六二年四月三日に発生したものであるところ、その当時の時価を的確に算定するに足りる証拠はないが、車両価格は一般に時を追うごとに低下するものであることは公知の事実であるが、事故日と近接した日時の時価として前掲甲第一二号証の一、二では同型車両について一〇〇万円という価格の表示があつたことに照らして考えると、少なくともその九割の九〇万円の価値を保有していたと認められ、原告会社の車両損害は九〇万円と認めるのが相当である。

(4)休車補償(二ケ月分)について検討するに、証人井上準二の証言及びこれにより真正に成立したと認められる乙第七ないし第九号証によれば、被告会社は、なごの浦運送を通じてパラマウントの仕事の専属として被告生川車を用いさせていたことが認められ、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第一〇号証によれば、被告生川は、本件事故により頸椎捻挫の傷害を受け、昭和六二年四月四日から同年六月二四日までイタニ外科に入院し、その後、同年七月一〇日まで同病院に通院加療した(実通院日数四日)ことが認められるから、被告会社が休車補償として二ケ月分を請求することは、けつして過大とは認められない。そして、以上の事実に、証人井上準二の証言及びこれにより真正に成立したと認められる乙第六号証によれば、被告会社が本件事故により被つた休車による損害は六九万三二二八円であると認められる。

以上の事実によれば、被告会社が原告会社に対し本件事故による損害として請求できる金額は、弁護士費用を除くと、車両損害九〇万円、車両移動代六万四七五〇円、積載貨物破損代三七万二〇〇〇円、休車補償六九万三二二八円の合計二〇二万九九七八円であると認められる。そして、右認容額は、本件訴訟の経緯等に照らして考えると、被告会社が本件事故に関連して原告会社に請求できる弁護士費用の額は、本件事故時の現価に引き直して一五万円と認めるのが相当である。

2  次に被告生川の損害について検討するに、被告生川は慰謝料として一〇〇万円、弁護士費用として一〇万円を請求するところ、先に認定したとおり、被告生川は、本件事故により頸椎捻挫の傷害を受け、昭和六二年四月四日から同年六月二四日までイタニ外科に入院し、その後、同年七月一〇日まで同病院に通院加療した(実通院日数四日)ことが認められ、先に認定した本件事故の態様等を鑑みると、慰謝料としては九〇万円が相当であり、右認容額に、本件訴訟の経緯等に照らして考えると、被告生川が本件事故に関連して原告会社に請求できる弁護士費用の額は、本件事故時の現価に引き直して九万円と認めるのが相当である。

四  結論

以上の次第であるから、原告らの被告らに対する本訴請求及び被告らの原告組合に対する反訴請求はいずれも理由がないからこれらをいずれも棄却し、被告会社の原告会社に対する反訴請求については、原告会社に二一七万九九七八円及びこれに対する本件事故当日である昭和六二年四月三日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これを認容し、その余は失当であるから棄却し、被告生川の原告会社に対する反訴請求については、原告会社に九九万円及びこれに対する本件事故当日である昭和六二年四月三日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これらを認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条、九三条一項本文を、仮執行宣言について同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 深見玲子)

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